禅僧になるため、幼くしてこの寺に入った少年(のちの雪舟)は、禅の修行はそっちのけで、好きな絵ばかり描いて日々を過ごしていました。それに腹を立てた住職(じゅうしょく)は、ある朝、少年を本堂の柱に縛(しば)りつけてしまうのですが、少し可哀想(かわいそう)に思い、夕方になって、本堂を覗(のぞ)いてみることにしました。すると、少年の足もとで一匹の大きな鼠(ねずみ)が動き回っているではありませんか。少年が噛(か)まれては大変と思い、住職はそれを追い払おうとしましたが、不思議(ふしぎ)なことに鼠はいっこうに動く気配(けはい)がありません。それもそのはず、その鼠は生きた鼠ではなく、少年がこぼした涙を足の親指につけ、床に描いたものだったのです。はじめ動いたようにみえたのは、鼠の姿がまるで本物のように生き生きととらえられていたからにほかなりません。それ以後、住職は少年が絵を描くのをいましめることはけっしてありませんでした。
カテゴリー:
ホビー・楽器・アート##美術品・アンティーク・コレクション##工芸品